月極を徹底解剖&解説
この矛盾を解く鍵は、この時期におけるわが国株式市場における「美人投票」の基準が、株主資本一単位の収益性(「0E)ではなく「経常利益」に代表される利益総額でみた収益力にあったためと考えられるoNOMU「A350株価指数の対象350社についてみると、1980年代を通じてJOEは趨勢的に低下したにもかかわらず、経常利益総額は81、82年度にかけて約5%、85、86年度にかけて約32%マイナスになったものの、トレンドとしては「右上がり」を続けた。
表244に要約される高橋文郎の実証分析は、この期間におけるわが国の株式市場の「美人投票」の特色を示す例である(挨6)03月期決算会社483社を対象にしたこの実証分析で、高橋はまず、8190年に関して1年間を投資期間とする株式投資の実現総リターン(配当利回りとキャピタルゲインの合計)を、同じ時期における企業の利益や配当などの代表的なファンダメンタル指標の実績値と相関させてみた。
この結果、株式投資のパフォーマンスと最も相闘が高かったのは、企業の経常利益総額の増加率であった。
アメリカに関する同様の分析では1株当たり利益の増加率が最も高い相関を示したのに比べて、わが国では経常利益の総額であった点が特徴的である。
経常利益が最も高い説明力を持ったのは、一般にわが国では経常利益がその企業の経営実態を最も忠実に反映する利益指標と考えられてきたからである。
また1株当たり利益でなく利益総額が最も説明力を持つのは、メインパンクをはじめリレーシヨンシップ株主の主たる関心事が、持分一単位当たりの成長ではなく取引企業の事業規模全体の成長にあったとすれば、むしろ当然であろう。
規模の成長性を優良企業の第一の条件と考えてきたわが国の株式市場では、経常利益総額の伸び率が高い企業こそ優良成長企業と評価され、その株価が最も上昇したのは、それなりに整合性を持つものであったといえよう。
次にこの実証分析は、かりに企業が1年後に報告する経常利益総額が事前に完全予測できたとして、期初に増益率の高い順に5つの順位ポートフォリオを毎年構築し、その年々の投資パフォーマンスを比較している。
その結果2、3の例外を除いて毎年、きわめて忠実に経常利益増益率を反映したパフォーマンスをあげたことがわかった。
そして、各順位ポートフォリオの10年間の累積投資価値をみると、増益率の最も高いポートフォリオの資産価値は市場平均ポートフォリオの約3、4倍に、そして最も増益率の低いポートフォリオの実に15倍に達することがわかった。
ここから明らかなように、わが国の株価は少なくとも相対評価については、ある意味ではきわめて忠実に企業の短期の利益成長の差を反映して形成されてきたといえる。
ただ問題は、それがあくまでも銘柄聞の相対評価をおこなう「美人投票」ゲームであり、絶対的な株価水準が企業のJOEをはじめとするファンダメンタルズに照らして適切であるかどうかを問う投資判断は、きわめて稀薄であったことである。
純投資の外部投資家が中心となっているアメリカの株式市場では、企業の経営内容が外から適切に観察、評価できるための工夫として、徹底的な情報開示(ディスクロージャー)を義務づけると同時に、情報を受けて専門的に評価分析・予測し、適切な株価評価につなげられるプロ集団(証券アナリスト)を多数育成することによって、効率的な株価形成をめざしてきた。
しかし、アメリカのように純投資の機関投資家が確立されておらず、個人投資家中心に形成されてきたわが国の株式市場では、個々の投資家がそれぞれ企業の発信する情報を分析し、予測につなげて、適切な投資判断をおこなうことは、コスト的にも能力的にもきわめて困難であった。
わが国では貸付市場のみならず株式市場でも、一般投資家になり代わってメインパンクに「デレゲイテッド・モニター」の役割をゆだねてきたのである。
すでに述べたように、元本リスクがコントロールされている環境下でのわが国の株式投資ゲームは、経常利益総額の成長の高い企業を当てる「美人投票」であった。
そしてメインパンクは、企業が順調に規模成長を続けていることの保証人(アンダーライター)であったといえよう。
回198589年の株価形成1985年から89年までの5年間(いわゆるパフゃル経済の最盛期)に、単純平均株価は2、3倍に、日経平均は2、7倍に急騰した。
この時期の株価形成は株価純資産倍率(PBR)が顕著な上昇を示した点で、戦後の相場史上でも特異な時期で、あった。
3つの評価基準の中で、一部上場企業の平均PBRは、70年代初めから84年頃までは22、5倍のレンジで、非常に安定していた。
しかし、PBRは85年から上昇し始め、バブル相場のピークの89年には実に5、5倍に達した(図241(3)。
また付属資料5に示されるように、PBRが10倍以上の銘柄も全体の1割以上に達した。
このようなPBRでみた株価の異常な上昇をもたらしたのは、折からの地価の急騰をふまえた資産価値重視の株価形成であった。
実際、この5年間の地価、とりわけ大都市圏の地価の上昇は著しく、85年3月から90年3月にかけて大都市圏の市街地価格指数は3倍に、商業地は4倍に高騰した。
地価のピーク時には日本の総資産価値は世界全体の富の20%に相当する2、000兆円に達し、世界中の株式市場の時価総額の2倍に相当するといわれた。
そして日本の地価の合計はアメリカの5倍に達し、首都圏の土地を処分すればアメリカ全土が、そして皇居と引き換えにカリフォルニア州がそつくり買えるといわれた(注7)。
高価な資産を大量に保有する大企業や銀行の株価には、当然その時価が反映されるべきだと考えられたのである。
企業の資産価値を株価に関係づける伝統的な評価尺度としては1株当たり純資産(BPS)の何倍まで市場で評価されているかを示す、いわゆる株価純資産倍率(PBR)が用いられてきた。
そして、そのよりどころとなる経済理論としては、いわゆる「トーピンのq」がある。
トービンのqは、企業が将来創出すると期待される経済価値の現在価値が、つまり市場が評価した負債、株主資本の時価総額合計が、再取得価格で評価した使用資産の時価の何倍になっているかでとらえる考え方である。
企業の総資本利益率が平均資本コストを上回る形で価値創造がおこなわれている企業ほど、トービンのqは高くなる。
今はやりのEVAやCF「OIも、これと同じ発想に立つものである(注8)。
これに対して1980年代後半の異常な株価上昇を、土地価格との関係で正当化するために用いられたわが国の「Qレシオ」は、トービンのqとは似て非なるものであった。
88年10月に日本証券経済研究所が発表した「日本の株価水準研究グループ報告書」の主査の若杉敬明は、Qレシオを次のように説明している(注9)。
@Qレシオは、株価を1株当たり純資産で割った比率である。
ここで、1株当たり純資産とは、企業が保有する全資産の時価評価額から負債返済分を控除した残余である純資産を株式数で割ったものであり簿価で表されたいわゆる1株当たり純資産と異なり、その時価評価額である。
Qレシオは一般に1以上になることが知られている。
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